相続した不動産の売却、税金で損しないための全知識|特例活用で手取りを最大化

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親が亡くなって相続した実家や土地。悲しみが癒えぬうちに、「この不動産をどうするか」という現実的な問題に直面される方も多いでしょう。
誰も住む予定がないなら、早めに売却して現金化したいと思うのは自然なことです。しかし、気になるのが「どれくらい税金がかかるのか」という点ではないでしょうか。
相続した不動産を売却する際には、主に「譲渡所得税・住民税」「印紙税」「登録免許税」という3種類の税金がかかります。これらの税金は、売却価格や不動産の所有期間によって大きく変動し、場合によっては数百万円単位の負担となることもあります。
ただし、一定の条件を満たせば、税負担を大幅に軽減できる特例制度が用意されています。これらの特例を知らずに売却してしまうと、本来払わなくてもよかった税金を支払うことになりかねません。
この記事では、相続不動産の売却でかかる税金の種類と計算方法、利用できる節税特例、そして手続きの注意点まで、わかりやすく解説していきます。
親が亡くなり相続した不動産を売却する際にかかる税金とは
相続した不動産を売却する際には、主に以下の4種類の税金が関係してきます。
| 税金の種類 | 内容 | 納付時期 |
|---|---|---|
| 譲渡所得税・住民税 | 不動産を売却して得た利益(譲渡所得)に対してかかる税金 | 売却の翌年に確定申告 |
| 印紙税 | 売買契約書に貼る収入印紙代 | 契約時に収入印紙を購入 |
| 登録免許税 | 相続登記(名義変更)の際にかかる税金 | 相続登記時 |
| 相続税 | 相続財産全体に対してかかる税金(基礎控除あり) | 相続開始から10ヶ月以内 |
このうち、相続税は不動産の売却に直接関係するわけではなく、相続財産全体に対してかかる税金です。基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える財産がある場合にのみ課税されます。
一方、譲渡所得税・住民税、印紙税、登録免許税の3つは、相続不動産を売却する際に必ず関係してくる税金です。それぞれについて、次のセクションから詳しく見ていきましょう。
相続不動産の売却でかかる税金①:譲渡所得税・住民税
相続不動産を売却する際に最も大きな負担となるのが、譲渡所得税・住民税です。これは不動産を売却して得た利益(譲渡所得)に対してかかる税金で、売却価格が高いほど、また取得費が低いほど税額が大きくなります。
譲渡所得の計算方法
譲渡所得は、以下の計算式で求められます。
譲渡所得 = 売却価格 − 取得費 − 譲渡費用
- 売却価格:不動産を売却した金額
- 取得費:不動産を取得した際の購入代金や仲介手数料、設備費など(建物の場合は減価償却後の金額)
- 譲渡費用:売却にかかった仲介手数料、測量費、解体費など
⚠️ 注意点:取得費が不明な場合
相続した不動産で、親がいつ、いくらで購入したのかわからない場合は、「概算取得費」として売却価格の5%を取得費とすることができます。ただし、この場合は譲渡所得が大きくなり、税負担が増える可能性があります。
所有期間によって変わる税率
譲渡所得税・住民税の税率は、不動産の所有期間によって大きく異なります。
| 所有期間 | 区分 | 税率 |
|---|---|---|
| 5年以下 | 短期譲渡所得 | 39.63%(所得税30.63%+住民税9%) |
| 5年超 | 長期譲渡所得 | 20.315%(所得税15.315%+住民税5%) |
⚠️ 重要:所有期間の計算方法
相続不動産の場合、被相続人(親)が取得した日から計算されます。つまり、親が30年前に購入した家を相続してすぐに売却した場合でも、所有期間は30年となり、長期譲渡所得の税率(20.315%)が適用されます。
具体的な計算例
例えば、以下のようなケースを考えてみましょう。
【ケース】
- 売却価格:3,000万円
- 取得費:1,000万円(親が購入した価格)
- 譲渡費用:100万円(仲介手数料など)
- 所有期間:親が25年前に購入(長期譲渡所得)
計算過程:
- 譲渡所得 = 3,000万円 − 1,000万円 − 100万円 = 1,900万円
- 譲渡所得税・住民税 = 1,900万円 × 20.315% = 約386万円
このように、相続不動産の売却では数百万円単位の税金がかかる可能性があります。ただし、後述する特例を利用すれば、この税負担を大幅に軽減できる場合があります。
相続不動産の売却でかかる税金②:印紙税
印紙税は、不動産の売買契約書に貼付する収入印紙代として支払う税金です。契約書の記載金額(売却価格)によって税額が決まります。
印紙税の税額表
2027年(令和9年)3月31日まで軽減措置が適用されており、以下の税額となります。
| 契約金額 | 本則税率 | 軽減税率 |
|---|---|---|
| 500万円超〜1,000万円以下 | 10,000円 | 5,000円 |
| 1,000万円超〜5,000万円以下 | 20,000円 | 10,000円 |
| 5,000万円超〜1億円以下 | 60,000円 | 30,000円 |
| 1億円超〜5億円以下 | 100,000円 | 60,000円 |
✓ 軽減措置について
不動産売買契約書の印紙税は、平成26年4月1日から令和9年(2027年)3月31日まで軽減措置が適用されます。契約金額が10万円を超える不動産譲渡契約書が対象です。
印紙税は他の税金と比べると金額は小さいものの、契約時に必ず必要となる費用です。売買契約を結ぶ際には、事前に収入印紙を用意しておきましょう。
相続不動産の売却でかかる税金③:登録免許税
登録免許税は、相続した不動産の名義を被相続人(親)から相続人(あなた)に変更する際にかかる税金です。不動産を売却する前に、必ず相続登記を行う必要があります。
登録免許税の計算方法
登録免許税 = 固定資産税評価額 × 0.4%
固定資産税評価額は、毎年送られてくる固定資産税の納税通知書に記載されています。市場価格(実際の売買価格)の70%程度が目安です。
具体的な計算例
【例】固定資産税評価額が2,000万円の不動産の場合
登録免許税 = 2,000万円 × 0.4% = 8万円
⚠️ 重要:2024年4月から相続登記が義務化
2024年4月1日から、相続登記が義務化されました。相続を知った日から3年以内に登記しないと、10万円以下の過料が科される可能性があります。不動産を売却する予定がなくても、早めに相続登記を済ませておくことが重要です。
相続不動産の売却で利用できる節税特例
相続不動産の売却では、一定の条件を満たすことで税負担を大幅に軽減できる特例制度があります。ここでは、代表的な3つの特例をご紹介します。
①取得費加算の特例
取得費加算の特例は、相続税を支払った人が、相続開始から一定期間内に不動産を売却した場合、支払った相続税の一部を取得費に加算できる制度です。
✓ 適用条件
- 相続税を支払っていること
- 相続開始の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売却すること
(相続開始から約3年10ヶ月以内)
この特例を利用すると、譲渡所得が減少し、結果的に譲渡所得税・住民税の負担が軽減されます。
②空き家の3,000万円特別控除
空き家の3,000万円特別控除は、相続した空き家を売却する際に、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度です。
✓ 基本的な適用条件
- 昭和56年5月31日以前に建築された建物(旧耐震基準)
- 区分所有建物(マンション等)でないこと
- 相続開始直前まで被相続人が一人暮らしをしていた
- 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却
- 売却価格が1億円以下
- 相続時から売却時まで、事業・貸付・居住の用に供していないこと
✓ 売却方法による要件(次のいずれかを満たす必要があります)
【パターン①】売却時点で耐震基準を満たしている建物として売却
- 売却前に耐震リフォームを行い、売却時に耐震基準を満たしていること
- 建物付きで売却する場合
【パターン②】建物を解体して更地として売却
- 売却前に建物を取り壊し、更地にして売却すること
- 取り壊し後から売却時まで、建物や構築物の敷地として使用していないこと
【パターン③】売却後に耐震リフォームまたは解体(令和6年1月1日以後の譲渡限定)
- 建物をそのまま売却し、売却後、翌年2月15日までに以下のいずれかを実施:
- 買主が耐震リフォームを行い、耐震基準を満たす
- 買主が建物を取り壊す
- ※この方法は令和6年(2024年)1月1日以後に行う譲渡から適用可能
⚠️ 重要な注意点
- この特例は、取得費加算の特例と併用できません。どちらか有利な方を選択する必要があります。
- 相続人が3人以上の場合、令和6年1月1日以後の譲渡では控除額が2,000万円に減額されます。
- 適用期限は令和9年(2027年)12月31日までに行う譲渡が対象です。
- 老人ホーム等に入所していた場合でも、一定の要件を満たせば適用可能です。
③マイホームの3,000万円特別控除
相続した不動産に相続人自身が居住していた場合は、マイホームの3,000万円特別控除を利用できる可能性があります。
✓ 適用条件
- 相続人自身がその不動産に居住していたこと(親と同居していた、または相続後に住んでいた場合)
- 次のいずれかに該当すること:
- 現在も住んでいる家を売却する場合
- 住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却する場合
- 所有期間の長短は問わない
⚠️ 重要な注意点
- 相続人自身が居住していなかった場合は適用できません。親だけが住んでいて、相続人は別の場所に住んでいた場合は、この特例ではなく「空き家の3,000万円控除」を検討してください。
- 別荘や一時的な仮住まい、投資用の物件には適用されません。
- 前年・前々年にこの特例やマイホームの買換え特例を受けていないこと。
- 住宅ローン控除との併用には制限があります。
この特例を利用すれば、譲渡所得から最大3,000万円を控除できるため、多くのケースで譲渡所得税がゼロになります。ただし、相続人自身の居住実態が明確に証明できることが前提となります。
相続不動産の売却で知っておきたい注意点
相続不動産の売却では、税金以外にもいくつか注意すべきポイントがあります。
①共有名義の場合は全員の同意が必要
相続不動産が複数の相続人の共有名義になっている場合、売却には全員の同意が必要です。一人でも反対すれば売却できません。
トラブルを避けるためには、早めに相続人全員で話し合い、売却方針を決めておくことが重要です。
②取得費が不明な場合の対応
親がいつ、いくらで購入したのかわからない場合、概算取得費(売却価格の5%)を使うことになります。ただし、これでは譲渡所得が大きくなり、税負担が増えます。
可能であれば、以下の資料を探してみましょう。
- ✓売買契約書
- ✓領収書
- ✓通帳の記録
- ✓住宅ローンの契約書
これらの資料があれば、実際の取得費を証明でき、税負担を抑えられます。
③確定申告を忘れずに
不動産を売却した場合、譲渡所得(利益)が発生したときは確定申告が必須です。また、特例を利用する場合は、たとえ譲渡所得がゼロであっても確定申告が必要です。
⚠️ 確定申告の期限
売却した年の翌年2月16日から3月15日までに確定申告を行う必要があります。
※還付申告の場合は、2月15日以前でも申告可能です。
✓ 確定申告が必要なケース
- 不動産の売却で譲渡所得(利益)が発生した場合
- 3,000万円特別控除などの特例を利用する場合(譲渡所得がゼロでも申告必須)
- 取得費加算の特例を利用する場合
ℹ️ 確定申告が不要なケース
- 譲渡所得がゼロまたは損失(マイナス)で、特例を利用しない場合
- ※ただし、損失の場合でも、損益通算の特例を利用すれば所得税の還付を受けられる可能性があります
特例を利用する場合は、確定申告をしなければ適用されません。必ず期限内に申告を行いましょう。
④早めの売却がおすすめな理由
相続不動産は、以下の理由から早めに売却することをおすすめします。
✓ 早期売却のメリット
- 固定資産税や管理費の負担を減らせる
- 建物の老朽化による資産価値の低下を防げる
- 空き家の3,000万円控除など、期限付きの特例を利用できる
- 相続人間のトラブルを防げる
まとめ
相続した不動産を売却する際には、譲渡所得税・住民税、印紙税、登録免許税という3つの税金がかかります。特に譲渡所得税・住民税は、所有期間や売却価格によって数百万円単位の負担となる可能性があります。
ただし、取得費加算の特例、空き家の3,000万円特別控除、マイホームの3,000万円特別控除などを利用すれば、税負担を大幅に軽減できます。それぞれの特例には適用条件や期限があるため、早めに専門家に相談し、最適な売却時期と方法を検討することが重要です。
また、相続登記の義務化(2024年4月)により、相続を知った日から3年以内に登記しなければ過料が科される可能性があります。不動産を売却する予定がなくても、早めに相続登記を済ませておきましょう。
相続不動産の売却は、税金や手続きが複雑で不安に感じることも多いでしょう。しかし、適切な知識と準備があれば、スムーズに進めることができます。この記事が、あなたの相続不動産売却の一助となれば幸いです。
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